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のらりくらり、ブログ

日々の思いをゆるゆると。マジメときどきバカ。雑記、ネタ、本の紹介。

ジャンルの壁を壊すクリエイターたち【本の紹介002】『コミュニティ難民のススメ』アサダワタル

※ネタバレ注意

 

コミュニティ難民のススメ ― 表現と仕事のハザマにあること ―

コミュニティ難民のススメ ― 表現と仕事のハザマにあること ―

 

 
【概要】
日常編集家を名乗り、文筆業、音楽、プロデュース、講師業で活躍するアサダワタル氏。自らの活動が既存の肩書きやカテゴリーに収まらないことによりいつもコミュニティからの疎外感を感じ続けてきたというアサダ氏がコミュニティを越境し、活躍する様々な分野の第一人者の活動を紹介しながら、コミュニティから疎外される表現者にしかできないことを見つめ直し、あえてコミュニティ難民になることで可能となる創造的な世界を模索していく。複数のカテゴリーにまたがって活動することの意義。カテゴリーを超えるとはどういうことなのかを考える一冊。

【こんな人にオススメ】
クリエイター/プロデューサ/企画の仕事をしている人(したい人)/会社に所属しながら何かをしたい人/起業を考えている人/これから就職する人/NPOの活動に興味がある人/アートに関心がある人

【感想】

21世紀の仕事のあり方を考える上での必読書。

みうらじゅん氏の『「ない仕事」の作り方』で、サブカルチャーに関して多岐にわたる分野で活躍する、みうら氏の仕事術を紹介しましたが、そもそも仕事をするということはどういうことなのかを考えるうえで、とても面白く、またこれからの仕事のあり方を考える上で事例的にも哲学的観点からもとても刺激的なのが本書です。

著者のアサダワタル氏は関西を中心に様々な実験的な活動を通じて活躍するクリエイター(※とひとことで紹介したときに生じる誤解や偏見がまさに本書のテーマなのですが、ここでは総称してクリエイターと呼びます)の方なのですが、子供の頃、「将来の夢はなんですか?」という問いに答えるのがとても苦手だったと書かかれています。これは、将来の夢がないのではなく、将来の夢が特定の職業で回答されることに関して違和感を感じており、それがアサダ氏の、一つの職業や仕事に特定されない活動につながっていきます。

そして、アサダ氏の、そうした姿勢は、一つの職業や仕事で形成されるコミュニティから疎外され、常に「結局、何がしたいんですか?」「結局、何屋さんなんですか?」と問われ続けるアイデンティティのゆらぎをつきつけらることになります。

しかし、アサダ氏はそうしたコミュニティの周縁(本書ではコミュニティを「島」、コミュニティの周縁を「岸辺」と表現されています。)から他のコミュニティを眺めることで自分と同じように他のコミュニティからも疎外されたポジションで仕事をしている人を見つけ、そうした人たちとのネットワークを築き、議論を重ねることでコミュニティの周縁で仕事をすることの意義を摸索していきます。

銀行に所属しながら銀行の枠におさまらない活動をする藤原明(ふじわらあきら)氏、家を建てない建築家、いしまるあきこ氏、クラブDJの経験をバックボーンに親から継いだホテルをプロジェクトの実験場にしてホテルの概念を再構築していく高村直喜(たかむらなおき)氏、人間が仕事に合わせるのでなく、仕事を人間に合わせるための活動をする梅山晃佑(うめやまこうすけ)氏、一人ひとりの人がそのままの生を表し合う環境を生み出すことに創造性をつぎこむ鈴木一朗太(すずきいちろうた)氏、デザイナーのふりをした学者を名乗る小倉ヒラク氏。

著者のアサダ氏を含め、本書で紹介される魅力的な人たちは、「銀行員です」「建築家です」「クリエイターです」「アーティストです」「福祉活動をしています」「NPO活動をしています」と紹介された時に、暴力的に切り取られてしまう領域、マージナルな領域で活動しています。そのため、彼らの活動を簡単に紹介することもできません。本書のように、それぞれの活動の本質や問題意識を背景にふまえ、時系列で丁寧に紐解いていくことで、徐々に、それぞれの人の活動の意義や人となりが見えてきます。

みうらじゅん氏の本の紹介でも述べましたが、これからは「仕事を創りだす」能力が求められると思いますし、さらにいえば、「専門性を越境する」活動が求められる時代になってきていると思います。

たしか、『クリエイティブ・クラスの世紀』にも同様のことが書かれていたような気がするのですが、あまり覚えていないので、また読みなおしてみたいと思いますが、「科学者でありながら音楽家でもある」、「役者でありながら建築家でもある」といった複数のジャンルにまたがる人間だからこそ、既存のカテゴリーに対して、異人(マージナル・マン)としてイノベーションにつながる大胆な活動ができるということです。

あまりにも早くコモディティ化が起きるのと、成熟社会化で既存の活動からは新鮮な意見やアイデアが出てこないので、今、どこの企業も他社や他業界とのコラボレーションに突破口を見いだそうとしています。

しかし、本書にもあるように、そもそも「仕事とは何か?」「働くとは何か?」「会社とは何か?」「ものを売るためにはものを作り続けることが果たしてよいことなのか?」という根本が問われる時代になっている気がします。

安寧な〈常識〉に浸かっている私たちが、ふとしたときに気がついてしまう違和感。それは私たちの心の中に、それまで見えていなかった境界(intangibleな境界)を浮かび上がらせ、私たちに新たな世界観を提示する。インタンジブルとは、触れることのできない、実体のない、つかみどころがなく不可解な、といった意味だが、まさに私たちはその触れることのできない境界をtangible(実体的、感知できる)なものとして見出してしまうのである。見えない境界を見出すこと、居心地の悪さを持てること、それが私たちの〈境界知〉の源泉なのである。(瀬名秀明他『境界知のダイナミズム』p.12-13)

 
今後、企業の寿命もどんどん短くなっていくと思いますが、今はインターネットがあるので個人がさまざまな形で活躍するインフラも整ってきていると思います。本書で紹介されているような新しい時代の活躍をする人たちが〈境界知〉を活用して新しい時代の常識を作り上げていくんでしょうね。

21世紀の仕事のありかたを考えるうえでオススメの一冊です。